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新田均のコラムブログです


by nitta_hitoshi
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勝岡寛次著『韓国と歴史は共有できない』(小学館文庫)

[『正論』平成14年9月号]

○“愚かなへつらい”を排除してこそ

 時あたかもワールド・カップ共催で日韓友好ムードが最高潮に達している中で本書は刊行された。想い起こせば、ベストセラーとなった前著『韓国・中国「歴史教科書」を徹底批判する』(同じく小学館文庫)の出版も、『新しい歴史教科書』の検定合格・採択をめぐって、中韓が日本政府に記述の修正を要求し、それを文部科学省が拒否し、怒った韓国が制裁措置を次々に発動する、といった時期だった。だから、状況だけから判断すれば、著者の勝岡寛次氏はよほど韓国が嫌いなのだろうと早合点してしまいそうになる。ところが、著者は、教育セミナーを毎年開催している日韓教育文化協議会(日本側代表は草開省三氏、韓国側代表は安長江氏)の日本側事務局長を務め、地道な相互理解に尽力してきた人物なのだ。ならば何故、タイトルを見ただけで日韓友好が破れてしまいそうな本を次々に出版するのだろうか。

 それは、真の友好を願えばこそ、“日韓・歴史教科書・併合”という、独立国家の国民同士の関係としては最悪の事態をもたらしかねない“愚かなきへつらい”を排除したいと熱望しているからのようだ。著者は、日本政府が進めている「日韓歴史共同研究」を様々な角度から検討し、それが如何に問題多きものであるかを次々に暴いていく。まず序章では、まるで裏取引でもあったかのように、昨年は拒否した韓国による修正要求にしたがって、文科省が今年は高校用『最新日本史』(明成社)を検定した事実を指摘し、第一章で「日韓歴史共同研究会委員会」設立に至る経緯と問題点を記し、第二章では過去に民間で行われてきた共同研究が、おおむね「日本による侵略」という歴史観のみを前提とした日本の教科書についての一方的検討でしかなかったことを批判している。

 次い第三章では視点を変えて、“日本も見習え”といわれるヨーロッパにおける教科書対話の実状を取り上げ、それがまだ「各国の記述の違いを自覚する段階」にとどまっているにもかかわらず、日本では国家を解消しようとする試みででもあるかのように意図的に歪曲して伝えられていることを指摘する。第四章では、歴史問題で韓国側が国益よりも学問的真理を優先できるとは考えられず、実質的に言論の自由の無い国との認識の共有などできるはずもないと主張し、さらにその理由を具体的に明らかにするために、第五章で日韓史上の様々な争点を挙げて解説している。現状では歴史「事実」の共有さえ不可能なのに、まして歴史「認識」の共有など出来るはずがないというのだ。

 著者は、観念的な説明に陥ることなく、常に証拠を挙げて、一つ一つの主張を具体的に裏付けながら議論を進めていく。読み進む内に、これまで漠然と感じてきた疑問に確かな根拠が与えらていく手応えを感じる読者も多いことだろう。愛国や友好の熱情ととは、このような形で昇華・凝固されるべきものなのだと感じさせられる一冊である。
by nitta_hitoshi | 2007-01-31 10:09 | 書評