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新田均のコラムブログです


by nitta_hitoshi
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語るに落ちた勝田吉太郎氏ー「大学の名誉のために一言」を吟味するー(6)

(平成12年5月中旬稿)


《「当地の事情」についての若干の説明》

 久保教授に対する大学側の対応が「辞職の勧告」から「事務職員への降格処分」へと変化するまでの間に、三重県では県立松阪商業高等学校長・永井久男氏が自殺するという痛ましい事件が発生している。平成十一年十二月十五日のことである。『週間新潮』(二月十七日号)によれば、この事件の背景には、同校の一教員が起こした差別発言事件があり、県教委による調査は二十数回に及び、さらに、部落解放同盟による糾弾学習会、高校内の教員たちによる生徒の前での報告集会の開催要求などがあったという。

 勝田学長を初めとした大学当局者は、永井校長の自殺に自分たちの将来を重ね合わせて恐れおののいたのではないかとの憶測が、関係者の間では囁かれている。勝田氏の「一言」の中にある「折しも、近隣の高校(複数)でここ一、二年の間に教員の“差別発言”がきひがねとなり、少なからぬ混乱が発生した。どうして久保先生はこういう状況のなかでこんな発言をしたのかー同僚の大半が困惑したのも自然の成り行きというもの」という記述は、この憶測の正しさを証明しているように見える。

 勝田氏は「三重県の人権センターのありのままの姿をも観察した。『人権センターについての評言はかならずしも事実と合致しない。随分荒っぽいセンター批判である』という指摘もでた」と書いている。となると、「三重県の人権センターのありのままの姿」に関して、三重県で今どのような問題が起きているのかについても「一言」しなければなるまい。

[平成12年]三月十五日の三重県議会・教育警察常任委員会において浜田耕司県議(自民党)によって、さらに翌日の行政改革調査特別委員会においては芝博一県議(県政会)によって、三重県同和教育研究協議会(同和教育の研究を目的とする教員を中心とした団体。以下「三同教」)に対する県教委の不自然な優遇策が指摘された。「三同教」は任意団体であるにもかかわらず県の施設である「人権センター」に入居し、入居費の補助まで受けている。長期研修を名目に九人の現役教員が長年にわたってー最長は九年ー事務局員として「三同教」に派遣され、文部省の方針に従って他の研究団体に対する補助金はカットされたにもかかわらず「三同教」に対する補助金だけは増額されている、というのである。

 県議会での問題化によって「三同教」に対する疑惑が高まる中、「三重タイムズ」が独自の取材によって、人権センターに関する新たな事実を明らかにした(三月三十一日)。それによれば、人権センターには「三同教」の他にも人権問題研究所、三重県解放保育研究会、IMADR(反差別国際運動)という同和に関係した三つの任意団体が入居している。県の財政悪化で、県立博物館などいわゆる“箱物”の建設がすべて抑制されている中で人権センターは建てられたが、「三同教」などの四つの任意団体は人権センターのオープンと同時に入居し、図書室を除く二階部分を占拠している。人権センターはこれら四団体以外の任意団体に対しては使用が許可されておらず、三階の会議室もこれら四団体が無料で自由に使用しているという。

 さらに、これらの団体にはいずれも教員が長期研修の名目で「事務職員として派遣」されており(給与は公費負担)、このような任意団体に対する教師の派遣も人権センターに入居している四団体以外には例がないという。これについて県教委は「教特法(教育公務員特例法)を拡大解釈してきたといえる。是正すべき点は是正していきたい」と語ったそうだが、「“同和”と名がつけば無条件に特別扱いとなるのか」と、「三重タイムズ」は批判している。

 「三重タイムズ」が、人権センターの問題を追及しはじめたのは、「鈴鹿国際大学の久保憲一教授がなぜ教授職を解任されたのか。久保教授が批判した人権センターに、その原因があるのではないか」との疑惑が生じためのようだ。久保教授を支援する人々の間では、“人権センターは同和関係諸団体の秘密基地で、久保教授は、それと知らずに批判してしまった。ここに光を当てられることは関係者にとって非常に都合の悪いことだった。これが久保事件の本質ではないか”との推測が流れはじめている。この推測が正しいかどうかはともかくとして、報道されていることが事実だとすれば、久保教授の「人権センターになっていない。実態は同和解放センターだ」という指摘は当を得たものであったと言えよう。鈴鹿国際大学は「人権センターのありのままの姿」についてどのような「観察」をしたのか、明確な説明が求められている。

ところで、本稿のはじめで、「部落問題は本当に怖い」と感じている勝田氏の感覚について疑問を呈しておいたが、ここでその理由を補足しておきたい。校長自殺事件、「三同教」・「人権センター」問題が浮上する中で、私たちも同和教育問題を考えざるを得なくなってきた。三教組が行っていた不正出張や不正研修と同様の不正を「三同教」も行っているとするならば、それを取り上げないのは公平性を欠くからである。また、“県教委が発行している”同和教育関係の資料に目を通してみると、同和教育に名を借りた「反日・反天皇教育」が行われている事実もあるようだ(渡邊毅「今日の教育と神道」『三重の公教育が危ない!』日本会議三重発行参照)。さらに、そのような問題点の指摘が自由に行えない環境があるとするならば、思想・言論・学問の自由の観点からも重大な問題である。

 こうした理由で、私たちが同和教育に関連した発言を始めたところ、「『諸君!』五月号を読んだのだが・・・」として、部落解放同盟三重県連合会から私と同僚の皇學館大学助教授・松浦光修氏に会見の申し込みがあった。最初は何事かと私たちも身構えてしまったが、三重県連からの提案は「これからは共生の時代だと考えているので、異なった意見の人たちからも話しをうかがう機会を持ちたい。状況の変化を踏まえて、これまでの運動の在り方についても見直しを行い、改めるべき点があれば改めていくつもりであり、事実、既に改めてきている。講演会のような形で、幹部数名が新田・松浦両先生の歴史観・天皇観・神道観などをお聴きする機会がもてれば有り難い」というものだった。もしも、その言葉通りに実現するならば、これは実に画期的なことである。このような企画を通じて、率直な意見交換が行える環境が整うならば、それは同和問題の解決にとっても大きな前進となることだろう。

 同和問題に詳しい人々の中には「些細な発言を捉えて、差別発言だとして糾弾された例もあるので気をつけて下さい」とアドバイスして下さった方もある。しかし、私たちは、三重県連の真摯な姿勢を信じて、この企画を積極的に推進したいと考えている。私たちは、やみくもに同和関係団体を恐れるのではなく、まずは相手を信頼することからこの問題を考えていきたいと思っている。勝田氏の感覚に疑義を呈した理由はここにある。(つづく)
by nitta_hitoshi | 2006-10-21 07:18 | 不掲載・未発表