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新田均のコラムブログです


by nitta_hitoshi
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大学入試センターへの質問状(平成16年1月21日)


[本日(平成19年1月21日)は平成18年度大学入試センター試験の最終日でした。そこで、平成15年度センター試験の問題に対して、私が起草し、松浦氏と共同でセンターに提出した質問状を掲載します。]


   質 問 状
平成16年1月21日
大学入試センター殿
皇學館大学文学部助教授 新 田 均
同 松浦 光修

我が大学が参加し、私ども自身も校務として関係させられました大学入試センター試験の問題につきまして疑義がありますので、我が大学の事務局を通じてお伺いいたします。責任ある回答をよろしくお願い申し上げます。

1.「世界史B」の「第1問」「B」の「問5」、「日本統治下の朝鮮」について正しいものを選べという問題で、「第二次世界大戦中、日本への強制連行が行われた。」が正解とされております。
 しかし、この「強制連行」につきましては、用語の的確さと実態の認識とについて、議論が分かれております。例えば、当時行われたのは「徴用」であって、それを「強制連行」と言うようになったのは1965年以降のことである(鄭大均氏)、「実態が『強制連行』などというものではなかった」(西岡力氏)などの異論が存在します。このように、歴史用語として、あるいは実態として、知識人や専門家の間で意見が異なっているような問題について、ある一方の主張だけを「正解」として、受験生に「強制する」ことは、教育の中立性を損ない、引いては、憲法が保障する思想信条の自由をも侵害するものではないかと考えますがいかかでしょうか。

2.「日本史B」の「第6問」の「A」に「既存の体制が生み出す矛盾に対して、マルクス主義の思想や学問は、根元的な批判を投げかけた。1920年代後半から1930年代初頭にかけてプロレタリア文学は隆盛期を迎え、また、マルクス主義による社会分析の成果が数多く生み出された。」との文章があります。
まず、「マルクス主義の思想や学問」についての評価は、今日ではかなり意見が分かれる問題でしょう。それを「根元的な批判」であったとするのは、かなり「主観的」で、入試問題の文章としてはふさわしくないのではないかと考えますがいかかでしょうか。
また、「マルクス主義による社会分析の成果」として、『日本資本主義発達史講座』を正解としておりますが、特定の「主義の成果」、それも「講座派」と「労農派」とに分かれていた内の一方のセクトの「成果」のみを答えとして受験生に「強制する」のはいかがなものでしょうか。

3.「現代社会」の「第1問」では、スウェーデンの紹介として、「外国人の地方参政権」について次のように書かれています。「こちらでは外国人でも一定期間以上住んでいれば地方参政権が認められていて、うちのママのように日本国籍のままでも、地方自治体の議会選挙には参加できるの。外国人であっても、住民として自分が住んでいる地域の問題には直接関係することが多いので、参政権は重要な権利と考えられているからよ。」
これは、国情の違いによって議論が分かれ、日本では反対の多い「外国人地方参政権の賦与」について、外国人の口を借りながら一方的に賛成派の主張を展開した文章です。その証拠に、下線部についての問いは、外国人地方参政権とは直接関係のない「住民の直接請求権」について問われています。このように、問題の形を借りて、特定の主義主張を展開することが、果たして、入試問題としてふさわしいとお思いでしょうか。
 また、同じく、「第1問」の「問1」の中に、「適当なもの」として、「夫婦同姓を定める現行の民法については、一方の配偶者が不利益を被ることもあるとして、選択的夫婦別姓を求める動きがある」という選択肢が挿入されています。このような社会の一部の「動き」を、入試問題に盛り込むことは適当なのでしょうか。もし、適当だとすれば、「教科書批判の動き」も、「憲法改正の動き」も、「集団自衛権容認の動き」も、同様に入試問題に盛り込んで構わないということになりますが、どうお考えでしょうか。
by nitta_hitoshi | 2007-01-21 23:01 | 不掲載・未発表